SPECIAL WRITING

辛酸なめ子

Shinsan Nameko

漫画家、コラムニスト。武蔵野美術大学短期大学デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。本名「池松江美」とペンネーム「辛酸なめ子」両方で、漫画、エッセイ、小説、アート作品、ポエトリー・リーディングなど、さまざまなメディアで作品を発表し、熱狂的なファンをもつ。

公式ブログ
http://webmagazine.gentosha.co.jp/shinsannameko/

辛酸なめ子|特別寄稿

会田誠は両極端の性質を持っているアーティストです。
まじめで変態、
ダサいけどセンスが良い、
イケメンなのに不穏、など
ときどきS極とN極が入れ替わってポールシフトする地球のように
見る人の感受性によって印象が逆転します。
画力が並外れてあるのに、突然ダンボールのプリミティブな作品を
作るところも、会田さん自身のポールシフトの衝動かもしれません。
センスが良すぎてダサくなった、というのは以前会田さんが映像作品の
中で女装していた時に、ELLEというロゴ入りの水着を着ていて
その絶妙なセレクトに痺れた覚えがあります。
まじめすぎて変態になったというのは、教師の家に育った
環境も関係していると思われます。
作品を見る側にとっては、作風の振り幅の大きさによる刺激が
麻薬のような作用をもたらし、会田さんにはまっていくのでしょう。
ところで会田さんは、変態的な作風と言われながらも、
実際の行為には及ばず、作品で昇華しているので、根はモラリスト
なのだと最近まで思っていました。
「青春と変態」のトイレのぞきも実際にはやっていないと信じていました。
しかし、「滝の絵」という作品を観て、若干その印象が変わりました。
美少女たちが滝でたわむれる、牧歌的だけれど刹那的でもある作品は、
時間を忘れて見入ってしまう魔力があります。
会田さんは、この作品を大阪の美術館で公開制作されたとあとで知って驚きました。
美術館を訪れる、良識的な市民の視線を背中に受けながら、スクール水着の
美少女たちを緻密なタッチで描き込んでいく会田さん。
よほどのMでないとできない行為だと感じ入りました。
作品制作自体がプレイのようです。
ご自身を「奴隷的芸術家」とおっしゃっていましたが、その言葉が改めて
重く感じられます。
また、会田さんの絵に描かれる、悲惨なことになっている美少女たち、
例えば切腹してはらわたが出ている女の子や手足が切断された美少女、
お腹を押されてイクラを排卵している少女たち、は皆どこか恍惚とした
表情を浮かべています。
彼女たちは会田さんの分身であり、魂のよりしろでもあります。
描きながら美少女に感情移入し、一体化する……会田さんの魂が
入り込んでいると思うとより作品にすごみが感じられます。
そして作品を描けば描くほど会田さんは脳内麻薬を分泌し、肌の
血色が良くなるのです。
会田さんにとって全てはプレイだと推測すると、美術界のインテリな教授や
批評家を挑発するような作品を作り続けるのも納得です。
また、作風的に孤高のカリスマ作家でいるほうがリスペクトされそうなのに、
若いアーティストとつるんだり、バーを開いたり、
幸せな家族を作っているという、リア充ぶりを見せつけるような行為も
旧来の美術界へのアンチテーゼなのかもしれません。
芸術と家庭を両立している希有なアーティスト、会田誠の幸せにあやかりたく、
これからも作品を拝見していきたいです。